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 神田の愛嬌稲荷神社に終戦から2回目の夏が来た。
 神社といっても、空襲で神楽堂から渡り廊下だけが焼け残った粗末なものである。
この社の神主・牛木公麿は、近所の錦華荘アパートの住人で戦争未亡人の5人の協力を得て境内でお面工場を経営する、気のいい、しかし戦争中に自分が神主として果たした「役割」は早く忘れたいと思いつつ、碁らしていた。
 そこヘ、戦死したはずの公麿の一人息子・健太郎が復員してきた。復員が遅くなったのは、輸送船から海に投げ出されたとき頭を強く打ったために記憶障害になったためだった。
 神田商業野球部で快速球投手と成らした健太郎は、金星スターズ入団テストに合格し、公麿や5人の戦争未亡人達の心の支えとなっていた。
 しかし、その幸せも束の間、健太郎の身辺を嗅ぎ回る男がいた。GHQ(連合軍総司令部)法務局主任雇員・諏訪三郎である。GHQは、戦争中、健太郎がグァム島でやったピッチング練習で、額にボールを当て気絶させた島の青年を「虐待」したと見なし、「C級戦犯」として連行しようとする。
 事を告げられた健太郎は、ショックで再び記憶障害に陥った。神田商業時代、キャッチャーとして健太郎とバッテリーを組み、今は精神科医である稲垣が、何とか回復させようと奮闘する。しかし、記憶が回復することは、C級戦犯として連行されていくことを意味している。
 稲垣の努力も報い健太郎は記憶を取り戻し、これからの対策を皆で実行に移そうとする瞬間諏訪が現れる。健太郎は、胸を張り隠れることなく、自分が「正気」であることを諏訪へ告げる。

 戦後の混乱を必死に生き抜こうとする心優しき、しかし、愚かな庶民群像の悲喜劇を、深刻にならず、軽やかな喜劇タッチで描く『闇に咲く花』はまた、全編に流れる静かなギターへの調べに乗せて贈る、過酷な運命に対峙せざるを得なかった「昭和庶民」への応援歌であるとともにレクイエムでもある。

 

 

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